ベルナノスと遠藤とスコセッシ

アイキャッチ用 松尾神父の今週の糧

「世界の最後のチャンスは貧しい国、貧しくなった国々の手にある。富める国はたとえどんなに寛大であっても、自らの繁栄をもたらしてくれた経済と社会のシステムを改革するのに本気でとりくむ力などない。しかし、世界は、変革しないなら、滅びる。遅かれ早かれこの世は巧みな扇動者、勇ましい軍人、少数の金融業者たちの意のままになってしまうということだ」。

上記はジョルジョ・ベルナノス(1888~1948)の言葉です。まるで現代世界についての予言的コメントのようです。『田舎司祭の日記』、『悪魔の陽の下に』など、信仰と人生の問題を深くえぐったベルナノスはモーリャックと共に、遠藤周作が最も傾倒したフランスの作家でした。

「信仰とは90%の疑いと10%の希望である」は、遠藤が好んで引用したベルナノスの言葉です。

こんなエピソードが残っています。遠藤周作が子供の時、「“黒”の反対は?」と問われて、「白」ではなく「ロク」と答えたとか、「“寒い”の反対は?」と問われて、「イムサ」と答えた周作少年。

また遠藤氏が京都での講演に急ぐあまり、息子さんのヘアークリームを持って出掛けた。ところが、それは女性の脱毛クリームだったことが、つけてからの異臭で気づいた、そんなこともあったそうです。

慌て者、そそっかしい人柄、おバカさんシリーズの執筆や「樹座(キザ)」という素人劇団や素人囲碁集団「宇宙棋院」を立ち上げるなどユーモラスな側面。

一方、人の心を揺さぶる『沈黙』や『死海のほとり』をはじめ数々の宗教思想の小説や戯曲、晩年に心血を注いだ心温かな医療への取り組みと提案。

そういうコントラストな両面をもった魅力的な作家でした。そこに共通するのは氏の〈愚直さ〉ではないでしょうか。

愚直な遠藤周作が追い求めた『沈黙』の世界。それに共感し、25年以上も温め続け、幾多のハードルを越えて制作を成し遂げたスコセッシ監督のこれまた愚直な姿勢を思いながら映画『沈黙』を鑑賞してみませんか。

 主任司祭 松尾 貢


おすすめ記事