「あなたは何故山に登るのですか?」という質問に、ある高名な登山家は「そこに山があるから」と答えたそうです。同じ問いに横浜山手教会所属の土方芳人氏は、次のように答えておられます。

人は、なぜ山に登るのでしょうか。わたしは長年にわたる登山経験から、「『神さまが創造された大自然に優しく包まれることにより、心を癒される』ことが忘れられないため」と考えます。春は、標高が低い山が素敵です。すべての雑草といわれる植物が色とりどりの花を咲かせ、蝶が舞い、小鳥たちは恋の季節の到来に美しい声でさえずります。夏は,高山植物の花が咲き乱れる3千m前後の山が素敵です。濃い霧に包まれ、岩場を登っているときに、一瞬、霧が晴れ、目の前の岩の割れ目から可憐な花(ミヤマオダマキなど)は花びらに光り輝く小さな水滴をつけ、谷から吹き上げて来る冷たい風により小刻みに震えている光景に出会うと、胸が締めつけられるほど感動します……。

ウォルター・ウェストンも山に魅了された一人です。英国聖公会宣教師である彼は、日本の山の魅力を世界に知らせた功労者です。明治29年、上高地の魅力を著書『日本アルプスの登山と探検』で称賛しています。趣味や楽しみとしての登山を日本に浸透させた功労者として、日本山岳学会は師の栄誉を称えて昭和12年に上高地梓川のほとりに彼のレリーフを掲げました。もちろん、師は登山だけしていたわけではありません。横浜の聖アンデレ教会の司祭として司牧と伝道に励み、慶応でも教師をしていました。松本に行ったときは、その地の日本人牧師・覚前政蔵師と意義深い礼拝式を執り行ったと記しています。明治26年8月上旬信州大町に泊まったときの印象を上記の本に次のように記しています。

「日曜日の朝、私は道の反対側の家から歌声が聞こえてくるのに心をひかれた。その歌の調子は実際立派なものではなかった。けれども外へ出て尋ねてみると。これはキリスト教信者の小さなグループであることが分かった。キリスト教は往々外国の助力がなくても、この帝国の奥まったここかしこに入り込んでいるのである」。

“大町市の西にそびえる後立山連峰の爺ケ岳は「ヘルモン山」にそっくり”という記述は宣教師ならではのものです。

主任司祭 松尾 貢

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