『いのちのまなざし』増補新版のこと

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教皇フランシスコが2015年の聖霊降臨に出された環境問題やエコロジーについての回勅『ラウダート・シ』。この回勅の中に日本司教団が2001年に出した21世紀への司教団メッセージ『いのちへのまなざし』の文章が引用されていることをご存知でしょうか。第2章<創造の福音>のⅣ被造界の調和の中の被造物それぞれのメッセージの85項です。

“日本の司教団は、彼ららしく、啓発的な観察眼を披露してくれました。「それぞれの生き物が、それぞれのいのちの歌を歌っているように感じ入ることは、神の愛と希望の中にわたしたちが喜び生きることにつながります」”

日本司教団メッセージ『いのちへのまなざし』はカトッリック出版界では異例の9万5千部が出ました。カトリック学校の宗教や倫理の副読本として使用され、英語版も発行され、外国からも注目された力作です。

幸田司教様が中心となって、この度増補新版が発刊されました。増補新版刊行の理由を次のように説明しておられます。
1. データが古くなったこと、生命科学や医療技術の進歩の速さ。
2. 2011年の福島原発事故後、原発に対する見方が大きく変ったこと。
3. 伝統的な家族のモデルがもはや通用しないこと。2015年の国勢調査では、単独世帯が2.6%を占め、最も多い状況。

興味深い指摘として、下記のようなことが挙げられています。

旧版を準備していた時代はES細胞(胚性幹細胞)全盛期でした。しかし、ES細胞は、不妊治療で使用されず廃棄予定の受精卵を用いるもので、子になる可能性を持った受精卵を壊すことになり、カトリックの立場としては受け入れ難いものでした。しかし、2007年に京都大学の山中伸弥教授が人間の皮膚細胞からiPS細胞の樹立に世界で初めて成功しました。これに最も喜んだのがカトリック教会だったかもしれません。山中教授は現在、教皇庁科学アカデミーの会員にもなっています。

もう一つ、新版の特徴は、結論を押し付けるのではなく、一緒に考えようという姿勢です。性的志向の多様性を扱った27項の最後は、こう結ばれています。“教会は敬意をもって、その人たちに同伴しなければなりません。結婚についての従来の教えを保持しつつも、性的志向の多様性に配慮する努力を続けていきます。”

主任司祭 松尾 貢

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