三か月に一度、神奈川第二地区の司祭たちが集い、会議をし、夕食を共にします。六教会持ち回りで、前回は藤が丘でした。司祭同士お互い抱えている小教区の問題を話し合い、アドバイスしあい、とてもいい交流の機会になっています。2011年3月に東日本震災が起こった時も、すぐに集まり2地区としての対応を協議することができたのも、この定期的な会議があったからこそだと思います。
前回七月の集まりで、ある司祭から次のような話がありました。
「最近、とても興味深い本に出合った。高田郁(たかだかおる)という作家の『出世花』という作品。これはまさに福音的精神そのもの。ぜひ読んでみてください」。あまりの絶賛ぶりに、早速アマゾンで注文して読んでみました。江戸時代、下落合にあった墓寺、青泉寺が舞台の時代小説。その湯灌場で三昧聖として遺体を洗う勤めをする女性が主人公「お縁」です。時代小説をかなり読んできましたが、これほど清い、まっすぐな小説は初めての体験でした。勿論、キリスト教の“キ”の字も出てきませんが、“愛(御大切)”に満ち溢れた小説です。東京式典の社長さんにも一冊贈呈し、「葬儀に携わる人にぜひ読んでほしい一冊です。まず、社長さんが読まれて、よかったら社員の皆様にも」と勧めました。
2009年にアカデミー外国語映画賞を受賞した映画『おくりびと』もいい作品でした。本木雅弘さんが納棺師を演じた作品です。受賞後の会見で滝田洋二郎監督は次のように述べました。「日本人は、いや世界中どこでも同じだが、死を忌み嫌う傾向がある。企画をいただいたときは不安だった。しかし、実際に納棺師の仕事を見て、これはやらねばならないと感じた」。
『出世花』の一節をご紹介しましょう。
老女は両手を差し伸べて、息子の頭を、顔を、優しく撫で続ける。
「倅よ、倅。もし、『親より先に死ぬとは順序が逆だ』とあの世で閻魔さまに叱られたら、『おっかさんはおっつけ来ます』と言うんだよ。三途の川を渡してくれないというのなら、おっかさんが逝くまで待ってるんだよ」
母の見えぬ目から涙が滴り落ちて、息子の帷子を濡らす。お縁の脇に控えていた三太の口から嗚咽が洩れた。親が子を失う悲しみに、子供の年齢は関係ないのだ。
主任司祭 松尾 貢