敬老の日に当たって、あるエピソードを紹介したいと思います。アサヒビール飲料(株)元会長・中條高徳さんの話です。中條さんは営業本部長時代、「スーパードライ」を世に登場させ、業績不振に陥っていた会社を救った立役者として知られています。中條さんがビジネスマンとしての生活に終止符を打った2010年、父親の仕事の関係でニューヨークの高校に通っていた孫娘・景子さんから一通の手紙が届きました。

  • 歴史の授業で今現代史をやっている。
  • 先生から、身内の人で戦争体験者がいたらその人の話を聞くように言われ、おじいちゃんを思い出した。
  • 先生も、かつて敵国だった日本の軍人の話を聞きたいと言っている“おじいちゃん、お願い。私の質問に答えて”というものでした。

 

歴史の先生のアドバイスを受けて作った16の質問の中に、こんな質問がありました。「日本と米国の戦争をおじいちゃんはどう考えていますか。日本にとって正しい戦争だったと思いますか?」

祖父・中條さんの答えは下記のようなものでした。

  • 戦争にしても外交にしても国家間に生じる衝突は、どこの国も自国の国益を最優先する。これは常識以前の常識。
  • 明治維新以降、日本が置かれた国際的な状況の説明。日清・日露戦争の意味、中国大陸で日中両国の軍隊が衝突した盧構橋事件、ABCD包囲網という経済制裁。また日本側は妥協案を用意して会談を何度も申し入れたが、米国側は一切交渉の場に出てこなかったこと。その代わりにハル国務長官が突き付けた対日要求(ハルノート)は、戦争以外に選択肢がない内容だったこと。
  • 戦争の正邪は軽々しく判断できない。ただ一つ言えることは、日米はやってはいけない戦争をやったということ。日本は中国大陸に戦線を拡大して誤った。米国は日本を戦争以外に選択肢がない状況に追い込んで誤った。
  • 戦争の結果だけで敗者の日本が悪、勝者の米国が正義になった。本当は双方の犯した過ちをきちんと認識しなければならない。

お爺ちゃんの返事は膨大な枚数になり、それは後で『孫娘からの質問状 おじいちゃん戦争のこと教えて』(小学館文庫)というタイトルで本になりました。この祖父と孫娘の対話は、過去と未来の懸け橋となる素晴らしいモデルではないでしょうか。

主任司祭 松尾 貢

LINEで送る