■使徒憲章『福音の宣教』(Praedicate Evangelium)の発布
おそらく、来たる2019年6月29日の聖ペトロと聖パウロの祝日に、使徒憲章『福音の宣教』(Praedicate Evangelium)が発布されます。使徒的憲章とはイエス・キリストの想いを受け継ぐ十二使徒の権威をもって、あらゆるキリスト者を適確に導こうとする公的な指針なので、重要な意味があります。この使徒憲章をとおして、教皇フランシスコは教皇庁の組織を抜本的に刷新することを明確に示そうとしています。教皇庁は「全世界のキリスト者を監督する立場」から「奉仕者としての立場」へと転換します。長年、教皇フランシスコは教皇庁を福音の宣教のために尽くす奉仕者として、へりくだって全世界のキリスト者を支えるように転換させるべく努力してきましたが、ついに新たな歩みが実現します。
現在、福音宣教を推進する事務局は2つあります。「福音宣教省」と「新福音化推進評議会」です。つまり、前者は16世紀以降の植民化的な宣教方法(プランテーション型の宣教;ヨーロッパの表現方式を他の地域にもそのまま移し替える宣教の仕方)を監督する「福音宣教省」です。後者が、ヨーロッパ地域の非キリスト教化をくいとめて、再び福音の精神を取り戻すための努力を重ねるべく教皇ベネディクト16世が設置した「新福音化推進評議会」です。これら2つの事務局を、教皇フランシスコが統合して、新たな意味づけによる1つの「福音宣教部署」として再出発させます(従来の植民化や差別意識を撤廃し、キリストの喜びの伝達と実践を最優先させます)。キリストの喜びになじんで生きる、あらゆる地域のキリスト者たちの対等なチームワークを目指して、教皇庁を新たに組みなおす教皇フランシスコの悲願が実現しようとしています。
■福音宣教と慈善活動を連続させることでキリストの喜びをあかしすること
教皇は、これまで「信徒・家庭・いのちの部署」・「人間開発のための部署」・「広報・情報・通信のための部署」・「経済担当部署」を設置しましたが、今回は「福音宣教部署」・「慈善活動のための部署」・「教育文化部署(教育省と文化評議会を統合します)」を新たに設けます。他に「国務担当部署」・「教理担当部署(虐待問題の対処や監督も含みます)」があります。教皇は、これまでの省と評議会の序列を取り払い、すべてを「部署」として対等な活動とチームワークのもとで運営します。しかも教皇は、「国務担当部署」や「教理担当部署」と並ぶかたちで、とくに「福音宣教部署」と「慈善活動のための部署」を最重要部署として位置づけようと考えています。つまり教皇は「キリストの喜びを伝え・生きること」を、教皇庁の奉仕職の最優先事項として表明します。「キリストの喜び」(相手を祝福して支えることの愉しさ)を伝えること(福音宣教)と生きること(慈善活動)とは連続しており、両方そろわないと意味がありません。
協力司祭 阿部仲麻呂