個性は基本(かたち)の徹底から作られます。個性は摸倣からの別の表現とも言えるでしょう。前に書きましたが、弓道には「弓道八節」という射の基本があります。どんなに優れた風格のある射も八カ条の基本をキチンとおさえたものに過ぎないのです。野球を例にとれば、どんなファイン・プレーも「走ること」「正確なキャッチ」「バットの芯にボールを当てること」等の基本的なものの組み合わせということになります。米野球界で2000本安打の偉業をなし終えたイチロー選手を支えたのは、「だれよりも早く球場に来ての練習」と「時間を見つけての柔軟体操」の基本だと解説者の大島元監督が解説していました。
舞台俳優にとって一番の基本的な演技は「歩くこと」であり、「歩き方」で登場人物の年齢とか、職業とか、性別とか、病気とか、全部表現できるのです。したがって「歩くこと」は一番難しい演技となり、それができれば立派な俳優ということにもなります。
バイオリンの辻久子さんは、難解な曲の練習をしていて行き詰まり、にっちもさっちも行かなくなった時は、バイオリン演奏の一番基本である「ドレミ」に帰ると言っています。一時間でも二時間でも自分が納得できる音が出るまで、ひたすらバイオリンを習い始めた少女のように「ドレミ」の練習に打ち込みます。その後で、先ほどの難解な曲に挑戦すると、たいていの場合、今度はあの難解な曲と同じ曲と思えないほどの演奏が出来るようになるそうです。
基本が大切なのは私達も知っています。ただ残念ながら、目立たないことをコツコツとするだけの根気が無いのです。「個性の時代」の中で、私たちは「摸倣と基本の徹底」を通して、じっくりと自分の個性を作り上げていきたいものです。キリスト者として「祈り」という基本を大切にしたいものです。