鷺沼教会からたまプラーザ駅に行く途中の鷺沼3丁目の交差点近くで、今、マンション工事が行われています。その宣伝文句の中にこんな言葉が書かれてありました。

― “たまプラーザの「華やぎ」と鷺沼の「静謐」” ―

なるほど、隣接する2つの街の特徴をみごとに表現した名コピーと,感心してしまいました。それまでは、若夫婦が多くセレブに似合う街・たまプラーザ、おじさんも歩ける街・鷺沼という捉え方をしていたので、「静謐」という表現にうなってしまったわけです。そして、次のような話を思い出しました。

太陽の照りつける初夏のある日、一人のセールスマンがまったく成績が上がらず、しょんぼりと歩いていました。対人恐怖症でどもりのあるセールスマン。いつも、要領を得ないしどろもどろの説明で、お客さんには飽きられたり、罵倒されたりしてきました。「ああ、なんて自分は無能なんだ」と、彼は自己嫌悪に陥ってしまっていたのです。

あふれる汗を拭きながら、ふっと目を上げると、そこに教会がありました。彼は誘われるように、その建物に入っていきました。そして、うなだれながら椅子に座っていると、年老いたシスターが彼の前に立ちました。

「どうしたのですか?」という優しい問いかけに、彼は自分がいかに無能であるかをとつとつと語りました。するとシスターは笑顔を浮かべながら、教会の奥から一枚の紙を持ってきて彼に手渡したのです。その紙には、一編の詩がしたためられていました。

それは、金子みすずの「私と小鳥と鈴と」でした。

そのセールスマンは、何度も何度もその詩を読み返しました。そして、心の中で、「みんなちがって、みんないい」と、繰り返しくりかえし、呪文のように唱えたのです。饒舌でなくてもいい、要領を得なくてもいい、自分にできるのは、心を込めてお客さんと関わることだ。みんなと違う自分を認めたことで、彼は大きく飛躍することができました。

鷺沼共同体に属する一人ひとりが、それぞれの特徴と持ち味を持っていることを認め合い、大切にしていきたいものです。

主任司祭 松尾 貢
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