東日本大震災以来、天皇・皇后両陛下は幾度も被災地にお見舞いに向われた。昨年5月11日、両陛下は福島県に入られた。両陛下は福島県が原発事故による風評被害を受けていることに心を痛め、訪問を強く望まれたことで、その訪問が実現したといわれている。
両陛下は福島入りをすると、まず福島市、ついで相馬市の被災者をお見舞いされた。相馬市の中村第2小学校でのお見舞いではこんなことがあったそうだ。幼い息子2人と一緒にいた主婦の阿部千恵さんの前で、皇后様は正座をなさり、「地震・津波のときは子供たちと一緒だったのですか」と質問されたという。「下の子は一緒にいたのですが、上の子は学校に行っていたので、捜しに行って連れて帰りました」と答えると、皇后様は目に涙を浮かべるようにして、「子供たちを守ってくれてありがとう」と言われたという。
同じ避難所の菊池祥子さんも、危機一髪で助かったことをお話しすると、「生きていてくれてありがとう」と皇后さまから言葉をかけられたそうだ。
菊池さんは振り返る。「予想もしないお言葉だったので驚きました。ただ生きているだけで、感謝していただいたのです。実は当時は何もかも失ったという喪失感があったのですが、皇后さまのお言葉により、“そうか、生きていること自体が大切なんだ”と思えるようになったのです。」
美智子皇后様の震災後の振る舞いや頻繁な被災地訪問などをみる時、祈りによって培われ、20世紀のフランス・カトリック思想家を代表するジャン・ギトンとの文通などによって深められたキリスト教精神への深い造詣からくる利他と慈愛の心が、短い言葉の中に凝縮されているような感じがしてならない。
3月11日、東日本震災一周年にあたり、もし今、イエス様が福島の地に立たれているなら、何をなさり、何を語られるのかを、静かに考えてみたい。