今日は鷺沼教会バザーの日です。この「バザー」という言葉はもともとペルシア語で“市場”の意味でした。

ところで、古代ギリシアで生まれた哲学や科学の伝統は、そのまま近代ヨーロッパへと引き継がれたわけではありません。ローマ帝国崩壊後、中世期ヨーロッパではかろうじてベネディクト会系の修道院で文化の継承がなされますが、多くを継承し発展させたのはアラビア文化圏でした。それが12世紀以降、今度はアラビア語からラテン語への翻訳という形でヨーロッパに流れ込み、12世紀ルネッサンスや近世ルネッサンス、近代ヨーロッパ文明の成立へとつながっていったのです。アリストテレス、プトレマイオス、ユークリッド、ヒッポクラテスがその代表例です。『中世の覚醒』(紀伊国屋書店刊)という本の第1章「知恵者たちの師」-アリストテレスの再発見―に次のような文章があります。

12世紀のスペインは、まさに学者の楽園だった。頭に浮かぶのはこんな情景だ。蝋燭であかあかと照らされた大きなテーブルの上に、シリア語、アラム語、アラビア語、ギリシア語などで書かれた何十冊もの写本が広げられている。テーブルのまわりで写本に読みふけったり、メモをとったり、活発に論じ合っているのは、顎鬚を生やしたユダヤ教徒、剃髪したキリスト教修道士、ターバンを巻いたムスリム、黒い髪のギリシア人といった顔ぶれだ。ここはスペイン中央部のトレド。くだんのテーブルは大聖堂の広間の中央に置かれ、その傍らには大司教ライムンドが佇み、数ヶ国語を操る学者たちが仕事に励む姿を慈愛に満ちた面持ちで見守っている。大司教自身もラテン語で書かれた一冊の書物を持っている。トレドの大司教が後生大事に持っているのは、翻訳されたばかりのアリストテレスの『霊魂論』だ。

中近東をめぐる昨今の悲しく辛い現実(民族と宗教間対立)と比べて、なんとうらやましい情景描写なのでしょうか。また彼らは現代の姿をどんな面持ちで見つめているのでしょうか。

今年のバザーのスローガン「笑顔でつなごう一人一人の力」のもと、近隣の住民の方々との出会いと友情を育むいい機会となるよう努めたいと思います。

主任司祭 松尾 貢
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