エリザベス・キューボラ・ロスの名著『死ぬ瞬間』。その本の中で彼女は、シカゴ大学病院で行った末期癌患者の死の受容のプロセスを紹介しています。間近で確実な死を宣告された患者は、まず否認/拒絶。次に怒り、取引、抑うつ、そして受容という五段階 ~個人によって程度と長さの違いは当然あるが~ を経ると述べています。
「死の哲学」の提唱者として知られる上智大学名誉教授のアルフォンソ・デーケン師はキューボラ・ロスの考察を有益なものと紹介し、“私たちキリスト者の場合は第六段階として、<期待と希望>がありますね”と著書や講演で発言なさっています。デーケン師は最近まで講座を担当なさっていましたが、体調を崩されて、お休みになっています。11月死者の月にあたりデーケン師が講演の中でよく触れておられる、師の妹さんの死について、ご紹介します。
デーケン師が子どものとき、妹のパウラちゃんが、不治の白血病にかかり、医者から、もう永くないと宣告されました。両親は「病院で死を迎えさせるより、生まれ育った家に戻って、私たちみんなで介護しよう」と決めました。妹さんの残された時間はわずか。その限られた命を毎日できるだけ楽しく思いやりに包まれて過ごさせたいと考え、いつも誰かが必ず妹さんのそばにいるようにしたといいます。昼も夜も誰かが妹さんのベッドのそばにいました。一緒によく祈りました。
もういよいよ最期という時がきました。妹さんは、静かに家族一人ひとりと挨拶しました。
「お父さん、さようなら」、「お母さん、さようなら」
「マリア、さようなら」「アルフォンス、さようなら」
そして、「また天国で会いましょう」と、小さくてもはっきりした声で言い、間もなく息を引き取りました。
このとき、デーケン少年は8歳でしたが、信仰は永遠に対する希望の根源だということを深く考えたといいます。そして妹さんの死を通じて、次のキリストの言葉を実感できたと告白しておられます。 「わたしは復活であり、命である。私を信じる者は死んでも生きる」(ヨハネ11:25)
主任司祭 松尾 貢