米国の35代大統領ジョン・F・ケネディは「日本人で尊敬する人物は?」という日本人記者の質問に、「Uesugi Youzan」と答えました。名君として知られている米沢藩主・上杉鷹山ですが、当時は、記者の中でも知らない人がいたようです。
ケネディ大統領がどうして鷹山を知っていたかというと、明治27年に英文で刊行された内村鑑三著『代表的日本人』を読んでいたからでした。この『代表的日本人』という本には、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人という5人の日本人が紹介されています。この5人に共通しているのは、封建社会にあって、時の権力者におもねることなく、真実を求め続けたその生き方にあるといえます。
今年のNHKの大河ドラマは西郷隆盛を取り上げています。内村鑑三にとっても、西郷隆盛は『代表的日本人』の中で最初に取り上げている人物です。内村はその中で次のように書いています。
“「敬天愛人」という西郷の言葉には、キリスト教でいうところの律法と預言者の思想が込められており、私としては西郷がそのような壮大な教えをどこから得たのか興味深いところである”
“西郷が「天」をどのようなものとして受けとめていたか、それを「力」と見ていたか、「人格」と見ていたかは定かではない(中略)しかし、西郷にとって「天」は全能であり、不変であり、きわめて慈悲深い存在であり「天」の法は誰も守るべきで、きわめて恵み豊かなものとして理解していたようだ”
しかし、内村には戸惑いがありました。なぜなら、西郷が心酔していた陽明学では、「天」に人格があり、慈悲深い存在、人を愛することは考えにくいからです。キリスト者である内村は、西郷が言うところの「天」は聖書に出て来る創造主なる神と同じ意味を表していることに気づいていましたが、なぜ西郷がそこまで捉えていたのかがわからなかったからです。ところが、最近の研究(特に、西郷南洲顕彰館の元館長である高柳毅氏らの研究)によって、西郷が漢訳聖書を読んでいただけでなく、塾で聖書の講義も行っていた、ということがわかってきたのです。聖書をかなり読み込んでいた西郷の「敬天愛人」だったというわけです。
主任司祭 松尾 貢