​メルケル首相とフランシスコ教皇

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ドイツのメルケル首相は1954年ハンブルクの生まれ。生後間もなく、父親の都合で東独に移り、1989年のベルリンの壁崩壊まで共産主義政権下で育ちました。ライプツィヒ大学で物理学を専攻。東ベルリンの科学アカデミーで研究生活を送り、東西ドイツ統一を機に政界に入り、1990年CDU(キリスト教民主同盟)から連邦議会議員に初当選。コール政権下で頭角を現し、2005年歴代最年少の51歳でドイツ連邦共和国首相に就任。以来EU内で最も影響力ある政治家として活躍中です。

首相の父親はルター派の伝統を受け継ぐ福音主義教会の牧師でした。福音主義教会といっても、トランプを推す米国の福音派とは全く性格の異なるものです。この度、新教出版社から刊行された『わたしの信仰――キリスト者として行動するアンゲラ・メルケル』という本を読むと、メルケルが牧師になることができる水準の神学的知識を持っており、なおかつ強い信仰の持ち主であることが伝わってきます。

1995年6月、ハンブルクで行われたドイツ福音主義教会大会に環境大臣として出席した際、メルケルは次のような話をしています。

〈一番難しいもの、それと同時に一番重要なもの、それは愛なのでしょう。私生活においても愛は簡単ではありません。しかし、聖書で言われているのは、勿論そうした愛ではありません。たとえば「ヨハネによる福音書」を読めば、どんな種類の愛が語られているかは明らかです。その愛は感情豊かな言葉から成るものではなく、冷静な行いのなかに現れます〉と、ディートリッヒ・ボンヘッファーの著書『抵抗と服従』という本の中から“わたしは何者か?”という詩を紹介し、説明しています。

現教皇フランシスコに対して、メルケル首相は深い共感を覚えているといいます。2人は何度もバチカンで会談しており、難民危機が2人を霊的レベルで兄妹の関係にした、と言われています。2013年、まだ教皇になって間もないフランシスコは、ランペドゥーザ島をお忍びで訪問し、難民問題を一般の人びとの意識の中に強く印象づけました。地中海における難民問題は、それまではイタリアやギリシャの問題として認識されていましたが、教皇はそれを変えました。メルケルはそのメッセージを受け取り、2014年と2016年の新年のスピーチで、このテーマをその年の教書の最初に取り上げたほどです。信仰の目による現状の分析と識別、そして実践という点で2人は通じ合う点を多く共有しています。

主任司祭  松尾 貢


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