十字架上のイエス様の言葉が、福音書に七つ書かれています。
- 父よ、彼らをお赦しください。自分がなにをしているのか知らないのです。
- はっきり言っておくが、あなたは今日わたしと一緒に楽園にいる。
- 婦人よ御覧なさい。あなたの子です。見なさい。あなたの母です。
- わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか。
- 渇く。
- 成し遂げられた。
- 父よ、わたしの霊を御手にゆだねます。
福音書はギリシア語で書かれているのですが、上記七つのイエスの言葉のうち4番目の言葉はアラム語で書かれています。「エロイ、エロイ、レマ サバクタニ」(マルコ15章34節)。マタイは「エリ、エリ……」とヘブライ語風に書き残しています。このことは、何を意味するのでしょうか。非常にインパクトのある言葉だったから、という説明もできますが、実は、この一見絶望的な響きに聞こえるこの言葉は詩編22番の冒頭の言葉なのです。熱心なユダヤ人は詩編150篇を暗記していました。当然イエス様も詩編は全部暗記なさっていたことでしょう。そして十字架上での嘆きの詩編と言われる詩編22番の祈りが湧き出てきたわけです。この詩編は嘆きで始まりますが、やがて賛美の祈りに変わっていく代表的な祈りです。詩編22の最後は次のように結ばれます。「わたしの魂は主のために生き、わたしの子孫は主に仕え、主のことを後の世代に語り伝えるでしょう。彼らは後から生まれてくる民に、主の正しさ、主の業を、告げるでしょう」
七番目の言葉をルカは次のように書いています。「イエスは、大声で叫びながら言った。“父よ、わたしの霊を御手にゆだねます”。そう言った後、息を引き取った」(ルカ23章46節)
実はこの言葉も詩編31の6の引用なのです。引用というよりも信頼の射祷といった方がいいでしょう。イエス様の日常生活がいかに詩編の祈りの毎日であったことがわかる十字架上の言葉といえます。
主任司祭 松尾 貢