私は若い頃、自分は頭が悪く、秀でた才能や能力もなく、何をやっても自信が持てないような人間でした。しかし、このような思いが変わったのは、司祭になって間もない頃、今日祝う三位一体の説教について考えている時でした。
それは三位一体の神は、単にすべてにおいて一致しているだけでなく、完全に一つでありながら、それぞれがちがう「役割」「働き」を持っています。この違いを持っているのは、人も同じだと考えたからです。
つまり人は、この世に生まれたときから、誰もがその人なりの使命を持って生まれてきているということです。ですから、誰一人、無意味な存在である人はなく、みんな何かしらの「役割」「働き」をもって、人に影響を与えるために神が使命を与えて下さっているということです。

朝ドラのモデルになった植物学者の牧野富太郎博士は、大好きな植物の研究に生涯を捧げて、日本の植物分類学の礎を築いた人物です。彼は子供の頃から身近な植物を観察し、標本作りや分類に没頭していました。生涯で彼が発見し、命名した植物は1500種類以上にのぼります。
しかしそんな牧野博士はただひたすら植物が好きで研究に没頭しましたが、莫大な借金をかかえ、学会との軋轢などもあったそうです。つまり彼は、植物オタクでしたが、人間関係や金銭管理の能力などは、あまり持っていなかったと言えるかと思います。しかし、それでも彼は、好きな植物を研究することで、人に大きな影響を与えています。

「好きこそものの上手なれ」ということわざがあります。これは好きで楽しんでやることで上手くなれる、極めることができるといった意味ですが、世の中には、私のように才能や能力がないと思っている人が結構多いでしょう。けれども誰もが好きなことが一つくらいはあるかと思います。それを楽しんでそして努力することで上手くなることも、才能や能力と言えるのではないでしょうか。そして、それを自分の「役割」「働き」として生かすことで、神が与える使命を果たすことができるのではないでしょうか。
(参照: WEB「世の中ラボ」 第153回 牧野富太郎を支えた「二人の妻」をめぐって

主任司祭 西本 裕二

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