カトリック作家として幅広く活躍され、今年2月28日に93歳で帰天された曽野綾子さんの著書『人生の後片づけ:身軽な生活の楽しみ方』で、彼女は5つの見出しを付け、「老年を幸福にする5つの要素」として語っています。
この中のいくつかは、昨今、耳にすることが多くなった終活でもありますが、後半の二つは、キリスト信者として生きてきた彼女の体験から、より人間として豊かに生き、最期を迎えるためにどうすべきか、という本当の意味で大切なことが示されているように思います。
老齢の幸せにおいて健康という要素を別にして考える場合、曽野綾子さんは第一の要素は、「身辺整理」ができていることと言っています。これは一般的な要素で、終活において大事な部分としてとらえられているかもしれません。
使っていない物は捨て、後に残された者に迷惑をかけないために価値がないと思われるものを処分する。一見小さなことですが思い出のある品々を捨てることは、それなりの覚悟が必要でしょう。
第二の要素として、彼女は「時間の有効な使い方」について語っています。死ぬまで時間をどう使うか、そんな中で人と同じ時間の費やし方はやめることを勧めています。現代はSNSが普及し、誰もがそのために多くの時間を無駄に費やしているように思います。
第三の条件として、彼女は「食事の豊かさ」について語っています。手間のかからない料理や残り物の活用など料理をとおして、豊かさを考えることは必要だと思います。
そして第四の要素は、彼女のキリスト信者としての経験が示されていると言えるでしょう。それは「損得を考えない生き方」です。損の中においてこそ生きがいが見つかると彼女は教えています。損得を考えずに生きる中で人間は素晴らしい出会いや生きがいを見出すことができるということです。
そして第五の要素として、「人間関係の大切さ」を教えています。優しさを持つことの大切さやあるがままで自分を失わないこと、また感謝に包まれて暮らすことなど、人間として生きるうえで本当に大切なことだと言えます。
私たちキリスト信者の生き方は、まさに損得を考えない生き方です。それはイエスの生き方がそうであったからです。ですから人生の晩年、幸せに生きるためにも〝損得をあまり考えずに、人に優しく、自分らしさをもって、日々神に感謝して生きる″そんな当たり前で単純と思える生き方にこそ、人間の幸せと喜びがあるのではないでしょうか。
曽野綾子著『人生の後片付け:身軽な生活の楽しみ方』河出書房新社
主任司祭 西本 裕二

