この夏、上記のようなタイトルの本が岩手県大船渡のイー・ピックスという出版社から刊行された。副題は、<ゲオルク・シュトルム神父の生活と思想>。
シュトルム師は1915年、スイスのシュイーツ県に生まれ、フリーブル大学、ベトレヘム宣教会の神学校で学び、1946年中国で宣教師生活を始めました。しかし1952年毛沢東による宣教師追放政策によって来日、大籠、水沢で司牧した後、1959年二戸に着任してから2004年89歳で帰天するまで、45年間この地で宣教師生活をおくりました。二戸市は樹木の生い茂る山間の街で、木の文化が根付いており、漆の生産高は国内生産の6割を超えています。その地にあって、シュトルム師は司牧の傍ら、二戸の木を使っての聖像やロザリオ、食器や彫刻の制作と、植樹活動に務めました。
宮澤賢治の童話に『虔十公園林』という作品があります。虔十という少年は生前、少し足りないと思われ、皆に馬鹿にされていました。ところが、その虔十が残した杉林が立派な公園林となって、<十力の作用(仏の働き)>を説いて、人々に何が本当の幸せであるかを教えている、という物語です。2000年「賢治学会」の理事たちはシュトルム師の植樹活動や思想が賢治の精神に通うと考えて、師に『宮澤賢治イーハトーブ賞』の授与を決定しましたが、なぜか、師はその賞を辞退します。
しかし2年後の岩手日報文化賞は素直に受賞されたそうです。その際の受賞記事は次のようなものでした。
「二戸の市民に感謝したい。第55回岩手日報文化賞に輝いた二戸カトリック教会の神父、ゲオルク・シュトルムさん(87歳)は受賞の喜びを二戸市民と分かち合った。本県に着任してから半世紀、二戸に移り住んで43年になるスイス出身の神父さん。20年以上にわたり種から苗木を育て同市内に植えた木々は50種類、2千本を超えた。環境破壊、自然との共存が叫ばれる時代、土に根ざした清貧な生きざまを身をもって示してきた」。
今日は被造物を大切にする世界祈願日です。「二戸のフランシスコ」「二戸の賢治」と呼ばれた師の生きざまは多くのことを教えてくれます。
主任司祭 松尾 貢