ロシアとウクライナの武力衝突の危険が迫っています。紛争の場所となっているのはクリミア半島です。実は今から160年ほど前にもこの地は戦争の舞台となりました。反目するオスマントルコとロシアの武力衝突でした。トルコを応援する英・仏・サルディニア4国とロシアの間に起こったクリミア戦争は1853年から3年間続きました。そのとき活躍したのが英国人ナイチンゲールでした。
女性が戦地に行くなどとんでもないという考えが常識の時代に、彼女は英国軍務大臣ラドン・ハーバードを説得して、シスター24名、職業看護師14名、計38名を引き連れて戦地に赴きました。負傷兵が病院で亡くなる主たる原因は野戦病院内の不衛生と睨んだナイチンゲールはまずトイレの清掃から着手し、病院の衛生環境の改善に力を注ぎました。その努力と献身的介護のかいもあって、野戦病院での死亡率は42%から2%に下がったと言われています。
「野戦病院」という言葉を聞くと、現教皇様の言葉が思い出されます。中央公論の今年1月号の表紙に「教会は野戦病院たれ!」という言葉が掲載されたのは記憶に新しいことです。昨年3月のコンクラーベから1年。現教皇様の言動は人びとに大きな刺激と希望を与えて下さっていますが、その中でも格別に印象深かったのがこの言葉でした。
もう一度、教皇様の言葉を反芻したいものです。
「教会がいま最も必要としているのは、傷を癒し信者の心を温める能力、寄り添うこと、親近感であることは明白だ。私は教会を戦闘後の野戦病院のようなものとして見ている。深い傷を負っている人に向かって、コレステロールのことや血糖値が高いかなどと聞くのは無意味だ。まず、傷の手当てをしなければならない。その後でなら、他のすべてについて話すこともできるだろうが、傷の手当てが先決だ。まず肝心なことから始めなければならない」。
「戸を開いて、来る人を待つだけの教会であることをやめて、自分自身から出て、教会に来ない人、去っていった人、無関心な人の方に向かっていくことができるようにする新しい道を模索する教会であるように努めよう」。