サレジオ会横浜支部 谷 聡史神父

「はたす」は、手元にある国語辞典(小学館新選国語辞典第九版)では「果たす」しかありません。意味は「成し遂げる」「物事を完全に終わらせる」「やり遂げる」「成し遂げる」となります。品詞は他動詞五段活用で、他に働きかける意味をあらわす動詞なので、「~を」という目的語をとります。例文としてよく使われる目的語は「債務を果たす」「義務を果たす」「役目を果たす」「任務を果たす」「約束を果たす」「目的を果たす」「再会を果たす」「雪辱を果たす」などがありました。
これらの言葉を聖書で検索すると、「約束を果たす」あるいは「契約を果たす」を見つけることができました。

◎創世記28章15節
母の勧めに従って、ヤコブは長子の祝福を先に受けた事が兄エサウの憎しみを買い、両親の勧めでハランに向かう時の言葉。神はヤコブに対して「私はあなたと共にいて、あなたがどこに行くにしてもあなたを守り、この土地に連れ戻す。『私はあなたに約束したことを果たすまで、決してあなたを見捨てない』」
◎エレミヤ29章10節
主はこう言われる。バビロンに70年の時が満ちたなら、私はあなたたちを顧みる。私は恵みの約束を果たし、あなたたちをこの地に連れ戻す。」
◎哀歌2章17節
主は計画したことを実現し、約束されたことを果たされる方。
◎シラ書36章20節
初めに創造された民に、あなたの約束を果たし、み名によって語られた預言者を成就して下さった。

旧約聖書で使われる「約束を果たす」とは、神が定めた土地に導くことを指しています。その土地とは、アブラム(後のアブラハム)を通して与えられた「乳と蜜の流れる土地」で、放牧生活から定住生活をするために与えられた土地でもあります。飢饉の為にエジプトに移動した後、一家族だったヤコブ一家は、エジプトでの長い生活の中で家族が増えイスラエル民族と呼ばれるようになりました。王の恐怖により彼らは奴隷のような生活を送ります。一族の存続の危機にあって、神様にこの状況からの救いを訴えます。モーセによって解放され、理想的な実り豊かな土地に導かれていきます。彼らにとって、その土地が様々な軛から解放されて、神と共に生きること、身近に感じることができる楽園だったのかもしれません。

◎使徒13章23節
約束に従って、このダヴィデの子孫からイスラエルに救い主イエスを送って下さったのです。

安穏とした生活の中で、次第に自分たちに都合の良い掟をつくり、神から離れて、罪の奴隷になってしまいました。それまで、預言者たちが再三再四勧告しましたが、一向に神のもとに帰らず、社会は乱れていきます。ついにそれが原因で、大きな災いを体験して初めて、神と共に歩んだ日々を思い出し、神に助けを叫びます。まさに「放蕩息子」状態です。こういう形で回心できる人は幸いですが、「放蕩息子の兄」のように神のそばにいながら神の意を汲まない、かわいそうな人々がいるのも事実です。民の叫び声に応えて、神は旧約の時代から約束していた救い主の派遣を果たしたのです。
それがダヴィデの子孫から生まれたナザレのイエスです。
長い歴史の中で、理不尽な掟に縛られた民は、イエスが説く新たな考え方、生き方を学びながら、キリストのように生きることが救いに繋がっていったのです。それが使徒書以降に描写された記述です。

神は約束を果たされました。
提示された約束を果たすために、私たちは自らを磨き、キリストの弟子として歩み続けなければなりません。そのために、神のしもべたちが書き記した旧約聖書、新約聖書の記述から生き方を学ばなければなりません。キリストとの出会い(洗礼、堅信)がゴールではなく、スタートです。キリストの弟子の一人として忠実に従って歩み続けているのか。撒かれた「種」(み言葉)をしっかりと受け止められる「良い土地」に自分はなっているのか。またタラントンのたとえ話のように、再会したキリストから「良いしもべだ!」と言われるほどに、自らを磨き続けているのか。いつも問われているように思います。
私たちの信仰とは、信じるだけでは足りません。信じて生きることです。特にパンデミックという余裕のない厳しい時代に、家庭の中で、社会の中で、関わり合いが希薄になっている今こそ、自らの在り方を見つめ直し、約束を果たすべく共に歩みましょう。

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