主任司祭 西本 裕二
以前いた教会で主任司祭として10年間働いていましたが、その教会は、聖堂前に聖家族、羊飼い、三人の博士、動物の像と全部揃ったものが置かれたりっぱな馬小屋を毎年飾っていました。しかし私が気になっていたのは内陣の飾りでした。ほとんど何も飾りが無かったので、私は聖堂の祭壇前にも大きな馬小屋「グロッタ(洞窟)」を作りたいと、ずっと思っていました。
着任して5年目のとき、当時、助任司祭だったマルシリオ神父が8月に1ヶ月ほどイタリアに帰省するということを伺いまして、海外だとかなり安いのでチャンスと思い、大きな聖家族像だけでなく、ついでに祭服など他の聖品の購入もお願いしました。
しばらくすると、イタリアで購入をお願いした聖品が届きました。早速、開けて見たところ、一つ残念だったのが40cmほどの陶器の天使像の羽が割れていたのです。海外からの荷物は丁寧な梱包で届かないことが多いので、仕方なく天使像は接着剤で直して、ヒビ割れ箇所が目立たないように聖堂の高い場所に置きました。
そして一番欲しかった聖家族像は、破損なく無事で80cmと大きさも丁度良く、思った以上にしっかりした物でした。私は、その年の待降節に入る直前にこの聖家族像を飾るための馬小屋(洞窟)作りを始めました。
私があえて祭壇前にも飾るようにしたのは、クリマスミサをより神秘的にかつ荘厳にしたかったからです。おかげで信徒の皆さんからは喜ばれました。
製作には半日かかりましたが、内陣の床で膝をついて、硬めの模造紙を何枚も繋げて、ベニヤ板を土台にしたものに模造紙を岩の形のようにして貼り付け、そして最後に塗装を施しました。
毎回作っているとき、お祈りや聖体訪問で教会に立ち寄った信徒の方がたから「神父様が馬小屋をわざわざ作っているのですか。大変ですね」などと声をかけてくれました。けれども正直言って、私は好きで作っていましたので、大変という思いより楽しんでやっていたと思います。
馬小屋(イタリア語:プレゼピオ)は、イエスの誕生を表した人形飾りです。
ご存じのように、馬小屋は、もともと1223年にアシジの聖フランシスコが中部イタリアのグレッチョの洞窟で飾って祝ったものがその起源とされています。グレッチョはフランシスコが隠遁生活をおくっていた小さな村です。
フランシスコが馬小屋を飾って祝った目的は、イエスの誕生の場面を文字の読めない人びとに再現するため、そしてまたイエス誕生の喜びと、救い主が自分たちのためにどんなに貧しく生まれたのかを村人たちと共に少しでも感じ取ることができるようにしたいと考えたからです。
洞窟の中に干し草を敷いて、木で彫った幼子イエスの人形を飼い葉桶の中に置き、さらに本物の牛とロバを連れてきて置きました。そしてフランシスコは、村人に向かって説教を行いました。村人たちは1200年前のイエス誕生に立ち会ったかのように感動と喜びに満たされたと言われています。そして逸話ですが、ミサの中で、フランシスコが飼い葉桶に寝かせていた幼子イエスを抱き上げると、目を覚ました幼子がフランシスコの腕の中で微笑んだと言われています。素晴らしい光景ではないでしょうか。
この出来事から世界中へ広まって、教会や家庭で馬小屋を飾って、イエスの誕生を祝うようになりました。
私はこのフランシスコの“主のご降誕の祝い方”に憧れます。それで私も自分で馬小屋を作って祝いたいと思ったのがきっかけで作り始めました。ですから私自身、フランシスコのように馬小屋を飾って、自分たちのために貧しく生まれた救い主の思いを少しでも知ることができたら幸いだと思っています。
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(教会報「コムニオ」2023年11・12月号より)