バチカンのフランシスコ教皇様の書斎の正面に「結び目を解く聖母」(Mary Undoer of Knots)の大きな絵が掲げられています。現教皇が最も好きな聖母の絵ということで、有名になりました。

1986年、現教皇がホルヘ・マリオ・ベルゴリオ神父時代、博士論文完成のためにドイツの大学に滞在していたときに出会った絵だそうです。この絵に心打たれたベルゴリオ師は絵葉書を作って、母国アルゼンチンに戻って配り始め、すこしずつ流布していきました。

この絵が描かれた由来は16世紀にさかのぼるそうです。ドイツの貴族ヴォルフガング・ランデルマンデル(1568-1637)は、妻が彼との離婚を望んでいたことに悩み、英知と敬虔さで慕われていたイエズス会のレム師のもとを訪れ、相談しました。

当時のドイツでは、結婚式のときに生涯添い遂げることを象徴的に示すためにウエディングリボンで新郎新婦のそれぞれの片方の腕を一つに結ぶ習慣がありました。ヴォルフガングは、今は絡んでしまった結婚式のリボンをレム師のところに持って行きました。レム師はその結び目を解きながら聖母マリアに熱心に祈りました。するとその願いは聞き入れられ、ヴォルフガングは離婚を避けることができ、幸せに結婚生活を続けることができたそうです。

時は過ぎ、その貴族の孫ヒエロニムス・ランゲルマンテルが司祭に叙階されたとき、祖父とレム師との素晴らしいエピソードに感動した彼はそのテーマで絵を依頼、それが「結び目を解く聖母マリア」の絵として誕生したというわけです。1700年のことでした。

教皇様はブエノスアイレスの大司教時代も、現在、教皇としても、多くの複雑に絡み合った難題や対応を迫られている課題に対処しなければなりません。それら諸問題を前にして、教皇様は、結び目を解く聖母の取次を願い祈りながら、対応なさっておられることでしょう。

「エヴァの不従順によるもつれが、マリアの従順によって解かれ、エヴァが不信仰によって縛ったものを、処女マリアが信仰によって解いた」(聖イレネウス)

主任司祭 松尾 貢

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