アイキャッチ用 ご受難

ご受難(ハンス・ホルバイン[子]画)

主任司祭 長澤 幸男

 一昨年だったか、ローマ教皇配布の長崎原爆で亡くなった弟を背中におんぶして火葬の順番を待つ少年の写真に胸を打たれた人は多かったと思う。原爆投下直後の凄惨な場であろうか。他にも原爆で焼けた家の中から泣きながら母親の骨をバケツに拾った息子の話も聞いた。故人を弔い、見送る最低の尊厳も許さない壮絶な光景であろう。一瞬ただの子守の少年としか見えない淡白な写真に尚更のこと暗さが滲み出て哀惜の思いがある。

これが誘ったせいか、遠い昔の幼い日の情景を思い出す。戦後間もない時代、リュック姿の復員軍人をよく見た。戦いに敗れ、着のみ着のままで故郷を急ぐ若い兵士にとって背負うとはこういう姿格好のことであろうか。今時、リュックが流行っているが、登校時、若い高校生の背負う鞄代わりのリュック姿とは程遠い。今は暗さのかけらすら見えないのである。

それにもう一つ暗いイメージが漂う。カスリのもんぺの姿の女性が、背中に乳飲児をおぶり、もう一人の幼い子の手を引いてホームに立つ。東北線(東北本線なんて「鉄道友の会」の洒落た言い回しはない)の大宮駅に着くと、それまで満員列車を引っ張ってきた蒸気機関車がまるでタバコを一服するように、蒸気の混ざった煙を横になびかせながら休んでいる。乗ってきた大方の乗客は、大宮で乗り換える。列車の終点は上野だが、大宮を出ると、次の停車駅は川口、そして日暮里となるのでほとんどの客は、山手線、常磐線、京浜東北線に乗り換えのためここで降りる。ところが、ここに曲者が登場する。街の交番のお巡りさんと似ても似つかぬ怖そうな警察官が待ち構えている。どういう基準か分からないが見つけ次第捕まえて、今持参してきたリュックの中を調べる。特に厳しかったのは、小学生の男の子のリュックである。子どもに持たせておけば見過ごしてくれるかと思うのだろうか。情け容赦なく、子どものリュックを取り上げて逆さにする。するとばらばらと出てくる。さつまいも、野菜、それにお米。もう一人の警官はそれを手際良くさっさと大きな袋に入れ替える。没収。呆然と見ていた物悲しい母親と半べそをかいた子ども、ぺちゃんこになったリュックを背負い、電車が来ても暫く乗らず駅に立ちすくむ情景は社会の歪みを見るようで、徒労を背負うとはこういうことか。

十字架を背負うキリストの姿がこれに重なる。担ぐと言うよりも、腰を曲げて背負う姿が、人生の重荷を背負う哀しき宿命を象徴しているかのようである。


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