よど号ハイジャック事件をご存知でしょうか。1970年3月31日朝、羽田発福岡行きの日本航空旅客機(よど号)が日本赤軍の9名の若者によってハイジャックされました。その中に、有名な2人のクリスチャンが搭乗していました。1人は濱尾司教(後に枢機卿、教皇庁移住・旅行者司牧評議会議長)、もう1人は日野原重明医師(後の聖路加国際病院理事長)でした。日野原重明さんはその時58歳。福岡市で開かれる日本内科学会総会に出席するために乗っていました。
2人はよど号に3泊4日閉じ込められた後、幸い韓国の金浦空港で解放され、無事に日本に帰ることができました。ハイジャックされた時の模様を日野原先生は次のように記しています。
“朝7時半ころ、富士山山頂付近を飛んでいる時、突然、「この飛行機を我われはハイジャックした。北朝鮮のピョンヤンに行くから黙って従え」と日本赤軍のリーダーが日本刀を抜いて叫びました。初めにその声を聞いたときは狂っているのかと思ったのですが、周囲に8人の若者が皆日本刀を振りかざしているのを見て、外国で時どきあるハイジャックだな、とすぐ思いました。彼らは手分けして、乗客120人全員の両手を麻縄で縛り上げたのです。その瞬間、私の頭に浮かんだのは、子供のころ日曜学校の先生から教わった聖書の言葉でした。それはマタイ福音書8章26節にある「なぜ恐がるのか」という聖句でした”
ガリラヤ湖の暴風。舟が大波をかぶっているのに、イエス様は眠っておられる。弟子たちはイエス様を起こして「主よ助けて下さい。私たちは溺れそうです」と叫びます。イエスは「なぜ恐がるのか、信仰の薄い者たちだ」とおっしゃり、風と湖を叱りつけられた、という箇所です。子供のときに習った<恐れることはない。いつも主が共にいて下さる。主に信頼しなさい>という教えが大人になって、危機的状況の中で思い出されるとは、三つ子の魂百まで、の好例ではないでしょうか。
冒頭の言葉はユダヤ人哲学者マルチン・ブーバーの言葉で日野原先生の好きな言葉です。日野原先生の若さの秘訣は、朝食毎に摂るオリーブ油以外に主への絶対的信頼と前向きの姿勢にあるのかもしれません。