アイキャッチ用 松尾神父の今週の糧

新教皇の伝記(日本語版)刊行に想う

2000年の春、鷺沼・調布での養成担当の仕事を離れて、四谷赴任を命じられ、ドン・ボスコ社の仕事を仰せつかった。新しい仕事に就く前に、イタリアの出版事情を見聞すべく、ボローニャで開催中の「国際絵本・児童書フェアー」とイタリア国内のサレジオ会系の出版社をまわる機会に恵まれた。

トリノではELLE DI CIというサレジオ会系の出版社を訪問した。イタリアの公立小・中学校で使用する宗教の教科書発行で定評がある会社だ。そこの責任者の司祭が、最近出した面白い本として紹介してくれたのが『IL POPOLO DELLA BIBBIA』だった。―― 2007年にバベルプレス社から『聖書の時代の人々と暮らし』という邦題で出版された。

“面白い”と形容したのはマンガや図版が多い内容もさることながら、Claudianaという出版社とサレジオ会系のELLE DI CIの2社合同出版ということだった。Claudiana社は13世紀に異端とされたヴァルド派教会が経営母体である。その出版社がサレジオ会系の出版社と仲良く聖書の子供向けの本を出している事実が興味深いことだったからだ。

一昔前のオフレー著のドン・ボスコ伝を読むと、ドン・ボスコが何度もヴァルド派の若者から命を狙われる箇所がでてくる。そしてグリージョという犬がどこからともなく現れてドン・ボスコを救う場面にハラハラしたものだった。かつては敵同士だったのに今は仲良くしているのを見て天国のドン・ボスコもびっくりしているのではないだろうか。

この度、新教出版社から新教皇の伝記が発刊された。『教皇フランシスコ ―― 12億の信徒を率いる神父の素顔』である。カトリック教皇の伝記の最初の邦訳出版がプロテスタントの新教出版社から発刊される21世紀。その様を天国のマルティン・ルターやカルヴァンたちはどんな思いで見つめているだろうか、想像するだけでも楽しくなってくる。かつて非難し合い、戦いもした新旧両教会が一緒に共同訳聖書を出版し、教皇様の本を新教出版社が発行するという、素晴らしい時代に生きることができることは実にありがたいことだ。

主任司祭 松尾 貢
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