警察庁の発表によると、今年2012年の年間自死(殺)者数は1997年以来15年ぶりに3万人を下回る見通しだそうです。東日本大震災にもかかわらず、自死が徐々に減少傾向にあるということは久々の嬉しいニュースといえます。
自死者の減少の要因の1つとして、大震災後の家族のありがたさや絆の強まりを上げることもできるでしょうが、青少年健康センター会長・齋藤友紀雄氏(プロテスタント牧師)は、日本自殺予防学会創立者である精神医学者の故・増田陸郎医師(カトリック医師会)や「いのちの電話」創立者ルツ・ヘットカンプ宣教師(ドイツMBK)らの先覚的努力の積み重ねと捉えています。
2001年、厚生労働省が中心になって自殺対策を策定しましたが、それは相談・治療という技術的課題だけではなく、基本的な理念構築が行われ、しばらくして「自殺対策有識者懇談会」が設置されました。委員長は東大名誉教授の故・木村尚三郎でした。氏は精神保健分野の専門家ではなく西洋史学者だったので、自死についても社会文化的に多角的視点からの検討と包括的な対策の必要性を強調しました。そして、掲げた理念が「共助」と「共生」でした。
「いのちの電話」の相談活動あるいは自死遺族支援というものも、同じ市民たちが問題を共有し助け合う、まさに共助の精神から来ています。
2001年にはもう一つ、画期的なできごとがありました。日本カトリック司教団声明『いのちへのまなざし』(カトリック中央協議会)による自死に関する声明です。
自死を断罪する姿勢ではなく、自殺を防ぎ、その遺族をケアすることが教会本来の役割であることを明確にしたのですが、これは教会にとどまらず、社会全体が共有すべき自死についての画期的な意識変革の表明であったと評価されています。
「見よ、おとめがみごもって、男の子を産むであろう。その名はインマヌエルと呼ばれる」(マタイ1章23節)。このインマヌエル(我らと共におられる神)こそ、「共生」の根底に流れている根源的契機そのものといえるでしょう。