6月29日は聖ペトロ・聖パウロ使徒の祭日でした。ペトロの後継者であるローマ教皇のために祈りながら、聖ペトロについて考えてみましょう。
ポーランドの作家シェンキェヴィッチが『クォ ヴァディス』という小説を書いています。迫害が起こったローマから逃げようとしているペトロが街の門のところにくると、アッピア街道の向こうから主イエスがやってくるのです。ペトロはびっくりして「主よ、どこに行かれるのですか( Quo vadis Domine? )」と尋ねます。主は「もう一度十字架に架けられるためにローマに行くのだ」と言い、主の幻がそこで消えるのです。ペトロは深く恥じ、引き返して、処刑されます。そのとき、ペトロの願いによって彼は逆さに十字架につけられた、といわれています。
上記の話は作家シェンキェヴィッチの完全な創作ではありません。「ペトロ言行録」といわれる新約聖書外典に詳しく載っているものです。「ペトロ言行録」中の、聖なる使徒の殉教という箇所ではローマの長官アグリッパの妾たち四人がペトロの説教を聞いて生き方を変え、その生き方が他の婦人たちに伝わって行く様がいきいきと描かれています。その後半のところに、ペトロと主イエスのローマでの出会いが載っているわけです。
『新約聖書外典』の中にはペトロの名を冠するものだけでも「ペトロ言行録」、「ペトロの宣教」、「ペトロ黙示録」、「ペトロによる福音書」があります。一体、外典とは何でしょうか。現在、キリスト者全てが共通して持っている新約聖書正典が最終的に確立したのは西暦四世紀の終わりごろといわれています。新約聖書正典(CANON “物差し”の意)27書が確定するまでには何回かの教会会議なるものがありました。くだいていえば、その会議でいいところまでは行ったが不合格になったものが外典なのです。外典は当時、一般によく読まれていました。ただ、正式な典礼には用いられなかったのです。
挫折と失敗、裏切りを繰り返し、イエスの思いとは遠く離れた理解しかしえなかったペトロ。しかし、泣きながら謝りながら、それでもイエス様に食らいついて歩んだペトロのしぶとさに倣いたいものです。